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ART
2020/7/3

絵かきが見たメキシコ。アニメーション作家、松本力のメキシコの旅。

著名なアーティストである松本力さんがメキシコに行ってきたということを聞き、ぜひメキシコで体験されたことを聞いてみたいと思い連絡をとりました!最近、松本さんは世界中で注目されてきていて、パリやロシア、東南アジアなどでワークショップをやったり展示を行ったりしています。国際的経験が多い松本さんがメキシコに対してどういった感想をお持ちなのかぜひとも聞いてみたい。そんな気持ちでこの日が来るのを待ちきれない思いで迎えました。準備中、松本さんに興味を持ってもらえるような質問を作りたいと、東京都美術館で行われていた展示会に行ってみたり、YouTubeのインタビューを参考にしたり、ネットで松本さんの作品についての情報を調べたりしました。松本さんの作品のテーマや考え方はすごく面白そうでさらに楽しみになりました。
しかし、松本さんのご自宅に到着して挨拶してから、このインタビューは自分が意図していたものとはかけ離れて、別のぬくもりのある方向に向かっているということを感じました。この真面目なインタビューはすぐにフレンドリーな会話になり、アイスクリームを食べながらの楽しい雰囲気で松本さんも気さくに話をしてくれました。

松本力

~なぜメキシコ?~


松本さんは、2014年と2019年8月に2度メキシコに行ったことがあります。アーティストのリタ・ポンセ・デ・レオン(Rita Ponce de Leon)からの招聘と国際交流基金の協力で色々なアクティビティーができた松本さんはメキシコの文化やアートとの出会いのことを話し始めました。


松本力:リタさんが初めて日本に来たとき、彼女と共通の友人のアーティスト、高澤日美子さんの紹介で、この自分の家で一緒に会話しました。僕は英語があまりできないんですが、彼女が望んでいたのは言葉じゃないんです。絵描き同士なので絵で会話したいといってくれて、言葉でも補足しながらですけれど、不思議と通じあって!それですごく仲良くなりました。それからの交流の中で、準備して、2014年にメキシコ行きが実現したんです。リタさんはペルー出身で、メキシコで暮らしながら活躍していて、彼女との友情からメキシコへの旅ができたんだとおもいます。

~メキシコのイメージ~

PR MEXICO:メキシコに行く前はどんなイメージでしたか?

松本力:僕のメキシコのイメージは、1990年以降の少しのメキシコ映画、リベラやシケイロス、オロスコの壁画、そして、カルロス・カスタネダ(Carlos Casteneda、ペルー生まれ)という文化人類学者が書いた本によるものが大きいです。実在する人物かどうかわからないらしいのですが、ヤキ(Yaqui)・インディアンの呪術師、ドン・ファン(Don Juan)と出会って、彼を対象にフィールドワークをするつもりがいつのまにか彼の弟子になって修行をするという、学術論文の形ではなくドン・ファンとの対話形式の小説です。日本で翻訳されたのは1972年で、著名な哲学者や宗教人類学者によって紹介されました。当時の日本の高度経済成長期の終わり、環境汚染や公害問題が顕在化した、そういう時代を背景に日本人が失いつつあるもの、心の中に続いている東洋的な知識を呼び覚ますような内容が問題提起となって、多くの人に影響を与えたのではないかと。その30年ぐらい後に、ぼくは読んだわけですが、荒涼とした広野や色取り取りの飾りで覆われた祝祭の町での暮らしを思い描く中に、メキシコの精神文化も感じられて、自分自身の死生観について考えるきっかけにもなりました。日本のお正月のように、来訪神を祀る風習などが生活のなかに残っているのですが、メキシコの人々の生活に、先祖の靈や神話の世界が強烈に顕在化しているのではないかと。そういう、自分の中のメキシコを想像していました。

PR MEXICO:なかなか深いところから入っているんですね!

~メキシコでのコラボ~


松本さんの旅は観光地に行ったりするものとは違って、メキシコの現代美術、メキシコのアートに触れる(メキシコのアーティストたちのコミュニティを知る)という機会でした。そのため、メキシコのアートの中心、メキシコシティやオアハカのギャラリーやアートスペースで展示したり、ワークショップをやったりするものでした。例えば、シネ・トナラ(Cine Tonala)やヴェルティゴ(Vertigo)、映画学校エス・シネ(Escuela Superior de Cine)やオアハカのグラフィックアート研究所イアゴ(IAGO: Instituto de Artes Graficas Oaxaca)などです。


IAGO: Instituto de Artes Graficas Oaxaca

松本力:最初の旅は、メキシコシティの北の方、比較的穏やかで公園がある場所、ローマ地区に行きました。そこに、現代美術やイラストレーションを扱う、ヴェルティゴというギャラリーがあり、リタさんの仲介で、一緒に旅したVOQ(ボック)さんとの展覧会を開催しました。VOQさんは、20年以上に渡って、共に表現活動をしてきた音楽家です。展覧会は、VOQさんとの二人展で、僕らがリタさんの家で滞在制作した新作のアニメーションと音楽のインスタレーションを中心に、日本から持参した他の作品の原画を展示したり、彼とのワークショップやライブをしました。また、同じ地区にシネ・トナラというとてもすてきな映画館があって、VOQさんのパフォーマンスと僕のアニメーションによるVJで、3日間つづけてライブをしました。そして、リタさんの友人のアーティスト達が集うアートスペース、クラテラ・インヴェルティド(Crater Invertido)でもワークショップを開催しました。そこを主宰しているディエゴさんとアンドレアスさんは、共通の友人でもある内山幸子さんが企画した、大阪のCalo Bookshop and Cafeで「コーペラティバ・クラテル・インベルティド 出版と運動」(2017)という展覧会で、彼らのアーティストのリソグラフで刷った本が紹介されたこともあるんです。ディエゴさんは、同じく内山さんがディレクションした「のせでんアートライン2019 避難訓練」という展覧会にも参加していました。彼らの本を見ていると、メキシコの神話と革命の時代がみんなの心の中にあるということがよくわかります。政治的なメッセージなんかもひっくるめて絵にして、どんどん出版していく。そのスペースで展覧会もやるし本も作る、そういう様々なかたちで表現をしているアーティストたちなんです。そういう素敵な出会いを、リタさんと彼女のメキシコの友人たちが全て作ってくれたんです。


クラテラ・インヴェルティドでは、多くのアーティストたちがリソグラフの印刷機で作品をつくっています。その表現が気に入った松本さんも彼らと本を作ったりしました。彼らの本を日本にいくつか持って帰ってきたらしいです。


松本力:僕は少し内向的な性格ですが、リタさんたちとこんなに親しくなれて、心からうれしいです。リタさんが僕らを招いてくれたおかげで、このような素晴らしい機会を持つことができました。
昨夏の2度目の旅で、メキシコシティのエス・シネと、オアハカのイアゴで、数日間のワークショップとライブを開催しました。メキシコの人々の活動し出す時間はゆっくりなので、日本だと午前10時ぐらいから始めるんですが、午後3時からにした方が良いということになって(笑)。その代わり、夜の8時までやりました。VOQさんが、一人一人アテレコのように録音して、その人が描いた絵の場面に、その人の音声を合わせた曲をつくってくれたんです!

松本力:参加費が無料だから、参加者が途中から来なくなっちゃうんじゃないかという心配もあったんですけど、オアハカのイアゴでも、みんなが最後まで頑張ってくれたので、素敵な作品が出来上がりました!でも、やっぱり時間通りに集まらないんですよね。それで「みんながそろうまで待つ!」と僕がいうと「なんで?」と。集まった人ではじめたらいいじゃないか、ということなんですね。でも、僕は誰も置いてかないぞ、と(笑)。

絵を描いてもらうと、その国や地域によって出てくるイメージがそれぞれあるんですよね。人々が関心のあること、メキシコではやっぱり「どくろ」がよくあらわれる。他にも「ハエ」や「悪魔」、「天使」や「マリア様」など、キリスト教文化を背景にしたイメージが率直に出てくる。すごく面白くて楽しかったですね。みんな絵を描くのが好きで、自国の文化を大切にしているなと感じました。そして、それぞれの地域の信条や生活が、絵を描く姿と重なって見えました。のんびりとしたオアハカでは、色々なイメージが出てきたのですが、そういう自国の文化を大切にしている一面を垣間みました。都会であるメキシコシティでは、なんとなくシュールで、現代社会への皮肉が感じられました。

~カルチャーショック?~

PR MEXICO:メキシコに初めて行った時に何かカルチャーショックはありましたか?

松本力:毎日がトルティーヤなんですね。トルティーヤを巻いて、揚げて、煮て、また巻いて…。美味しいから、嫌ということはないんだけど、日本人的な感覚でいうと、町中がお菓子の「とんがりコーン」の袋を開けた時の匂いというか。僕はトウモロコシといえば、お祭りの焼トウモロコシぐらいだから。でも、日本のはアメリカ産の甘いトウモロコシだからだと教わりました。トルティーヤにすこしあきたら、コンチャ(Concha、貝殻のこと)というメロンパンにそっくりな菓子パンを食べてました。そう、とても興味深かったのはメキシコ人の食事です。朝食は軽めで、午後に外でちゃんと食べる。日本では、朝昼晩と決まった時間に食べようという習慣があるから、ズレを感じました。あと、時には、夜遅い時間でも食べる。これが、なかなか素敵だなと思いました。

~印象的だったことは?~

松本力:僕のアニメーションとVOQさんの音楽のライブを見てくれた人たちが「すごく感動した」と言ってくれて。僕らも、メキシコの人々の感性の違いを共有したというか。素敵な国での旅愁を感じているところもあるけれど、感動を共有するコミュニティがあっていいなと。ギャラリーや映画館や家で、場所場所で自分のメンタルが変わる。もちろんイベントは然るべき場所でやるんだけど、メキシコの人から学んだのは、彼らの感性が町の中に漂って流れているのがみえるような気がするんです。なんとなく、それぞれの人が考えているいろんな感情が、歩きながら楽しさがこぼれている。変なことを言っているけれど、そういうのが見えた気がして。僕が絵かきだからなのか?

面白かったのが、地下鉄に乗っているとドライバー1本とか巻き尺1つとか売っていて、そんなの買わないだろうと思ってたら「あ、ちょうどよかった」みたいに買う人がいる。家に忘れたのか、お店まで行く手間が省けたということなのか、不思議で。突然すごい大音量の音楽が響いてきたと思ったら、乗ってきた青年のバックバックがパンパンにふくらんでいて。あれ、スピーカーが入っているんだな、しかも4つも。彼が振り返ったらCDを持っていて、ああ、いま流している曲を売っているんだなって。でも誰も怒らない。また別な人は、座っている人たちの膝の上にホログラムのマリア様の大きなカードを置いていく。手で受取って、そのままこちらに向けて持ってあげてる女の子もいる。それをまた順々に回収していく。配っているのかなとおもったけれど、買いたい人は回収する時にお金を払うらしい。そういうこともみんな嫌がらない。いいなって。

~松本さんのお奨めメキシコ~

PR MEXICO:メキシコに行こうとしている日本人のアーティストがいればお奨めはありますか?

松本力:リタさんのような、素敵なメキシコの友人たちとのつながりに出会えればと思います。そして、メキシコのアーティストたちが日々どんな活動をしているか、彼らの本はとてもアクティブなイメージにあふれているし、彼らが学んだ美術教育の場とかを、彼らと一緒に行けたらいいなと思います。

あとは、メキシコ国立人類学博物館(Museo Nacional de Antropología)が必見なのは言うまでもないことですが、リタさんが教えてくれたのが、メキシコシティの美しいホセ・バスコンセロス公立図書館(Biblioteca de México “Jose Vasconcelos”)です!地下鉄のバルデラス駅から歩いていけます。さらに、図書館を通り抜けた広場の向こう側に、面白い土産ものを売る店が密集している、シウダデラ市場(Mercado De Artesanías La Ciudadela)があります。そして、その先にある、民芸品博物館(Museo de Arte Popular)がすごくお奨めです!メキシコの土産ものは、古代から続く職人技とそのファンキーな精神によってつくられた工芸の名品の数々の雛形であることを知りました。マニアックな見方ですが、そこはメキシコの妖怪たちに出会える場所です。ぜひ、いってみてください。

どうですか?観光旅行ではない松本さんのメキシコの旅ですが、こういう側面から見たメキシコもまたすごく興味深いですね!

今でもメキシコで過ごした家の窓から見た景色が目に焼き付いている松本さん、またぜひメキシコを訪れる機会を作ってくださいね!

松本力さん今回は素敵なお話を有難うございました!

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August 13 – 16, 2019

@Instituto de Artes Gráficas de Oaxaca (IAGO)

Music: VOQ (Hiroshi Honda)

Management: Rita Ponce de Leon (Artist)

Translator: Fumiko Sukikara (Translator)

Special Thanks: Inari Reséndiz (Artist)

amaneci PERREANDO en la LiNEA 13

August 9 – 11, 2019

@Escuela Superior de Cine, Mexico

Music: VOQ (Hiroshi Honda)

Management: Rita Ponce de Leon (Artist)

Translator: Marlitt Almodovar (Artist)

Special Thanks: Simon Gerbaud (Artist / Escuela Superior de Cine)

Tá Chido Tu Koto

A NAHUAL MENTION XING CO-TIME!

August 23 – 24, 2014

@Cráter Invertido (García Icazbalceta 32 San Rafael Ciudad de México, Distrito Federal, México)

Music: VOQ (Hiroshi Honda)

Management: Rita Ponce de Leon (Artist)

Special Thanks: Himiko Takasawa (Artist)

The presence of artists in Mexico is supported by: Mexico Japan Foundation, Trust “Fund the Mexico-Japan Friendship”, Restaurant Yuban, Inverted Crater.

VERTIGO: A DANCER’S DREAM

A NAHUAL MENTION XING CO-TIME!

August 16 – 17, 2014

@Vértigo Galeria (COLIMA 23 / COLONIA ROMA, MEXICO, D.F.)

Music: VOQ (Hiroshi Honda)

Management: Rita Ponce de Leon (Artist)

Special Thanks: Himiko Takasawa (Artist)

The presence of artists in Mexico is supported by: Mexico Japan Foundation, Trust “Fund the Mexico-Japan Friendship”, Restaurant Yuban, Inverted Crater.

Rita Ponce de León

VOQ(本多裕史)

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